Interview vol.11 安西はぢめ[シュタイリッシュ・ハーモニカ]Hajime Anzai[Steirische Harmonika]

 

蛇腹党インタビューVol.11 2020年の締めくくりは、アコーディオンの音で人を幸せにしちゃう!安西はぢめさんです!

 

--安西さんがアコーディオンを始めるまでの経緯はどんなものだったのでしょうか?

 

「私がアコーディオンに出会ったのは小学生の頃ですが、まさか自分で弾く日が来るとは思っていませんでした。十代になって他の楽器の先生に就いた時、シュランメルというウィーンの軽クラシックを演奏するアンサンブルを手伝ったんです(私はギター担当)その中にアコーディオンの方がいて「良い音だなあ」と思い、改めてやってみようと二十歳の時に中古の楽器を手に入れたのが一番最初です。けれどもこんなに重いと思ってなかったので、真面目に取り組み始めるのはずっと後の25歳前後になってからでした。さらにその後2000年にピアノ式からボタン式へ転向します。その後金子万久先生に師事したり、パリへレッスンを受けに行ったりするようになります。丁度ヨーロッパに通い始めて10年経ちましたね。ひとまず簡単に書きましたけど、紆余曲折があり過ぎてnoteに書き始めたらエピソードが多過ぎてものすごく長くなっちゃいまして、まだ書き続けているくらいです。お時間ある方はそちらもご覧ください。」

安西はぢめさんnote

ハッピーアコーディオン安西はぢめ|note

 

--今までアコーディオンのお仕事で、変わったお仕事や大変だった事ってどんな事でしょうか?

 

「このお仕事をさせて頂いてから楽しい思いや、変わった体験をたくさんさせて頂いてますが、契約上の守秘義務などで書けないことがたーくさんあります。親しい人や生徒さんと内々で共有することはありますけど。特にテーマパーク時代の話はなかな面白い話がたくさんありますが、お伝えできず残念です。でも、どこにでも書けるお話で、しかもアコーディオンのご縁で体験させて頂いた中で思い出深いのは、とある方の新築祝いのこと。お邪魔した先には、私とご家族の方などほんの数人の中に往年の大スター元李香蘭こと山口淑子さんがいらっしゃっていて、午後のお茶から夜のお食事までプライベートでたくさんお話しさせていただいたことです。もう20年以上前の話で家の持ち主も、山口さんも亡くなってしまいましたし、山口淑子さんの事をご存知ない方も増えていますが、これは今でも一二を争う大切な宝物です。その時に、李香蘭時代のレパートリーとして歌われていたからシャンソンの「聞かせてよ愛の言葉を」を弾きましたら、演奏後にひと言ポロッと「みんなが知ってる曲を弾くって難しいわね」と言われました。あの時は冷や汗が出ましたね。思い出すと今でも赤面します(笑)」

--アコーディオンって社会人になってから始める人もいたりしますが、上達のコツって何だと思いますか?またはオススメの練習法などあれば教えてください。

 

「私の教室で以前お預かりした生徒さんの最年少は4歳でしたが、その例外を除けば全員が成人でした。そして殆どの方が楽器経験がありませんでした。その条件で始めた生徒さんたちを指導していく中で繰り返し「レッスンでは私が最大限情報を渡すから、それを持ち帰って頭を使って無駄なく最短距離を目指そう!」と励ましています。大人の人は理想についてイメージを持っていたり「あの曲を弾きたい!」と目標を持っていたりする場合が多いんです。でも現実は基礎から始めると嫌になってしまう人が一定数います。アルファベットを覚えるのは嫌だけど英語を読めるようになりたいと言っているようなものです。今までも、レッスンの時には単純な反復練習などを「こういう目的のこういう練習だから、これがこういう風にできるようになるまでやってみて」などと具体的に解説して「やってごらん」と言ってもキチンとやってる人は極く少数です。「メトロノームを使ってね」と言っても使っていない人の方が多いと思います。お金を払って聞かないためにアドバイスを聞きに来るなんてもったいない話しだと思いますけど、それ以上は言いません(笑)ありきたりですが、コツは「素直にやってみる」ことと「ゆっくりでも正確に弾く」ことではないかと思います。私もカッチリした演奏が得意じゃありませんけど、地味な練習は今でも続けています。あらゆるジャンルのスポーツ選手がストレッチやランニングをするように、音階練習やアルペジオの練習は超オススメです(ミュゼット好きな人はアルペジオを練習しただけで飛躍的にラクに弾けるフレーズが増えますよ!!)あと、私の教室では「できない」「難しい」「まだまだ下手っぴですから」などなど自分に呪いをかけるような言葉は出来るだけ使わないように諭しています。楽譜を見ては「これ弾けない」と言ったり、私が褒めても「そんなことないです」など、自分に制限をかける人が圧倒的に多いです。弾けるようにならないばかりか、どんどん下手さえなるかもしれません。「自分の足を引っ張るのは自分」という危険性と可能性の遮断を避けたいものです。」

 

--近年ではスロヴェニア音楽をされていますよね?楽器の種類も皆さんが使用されている一般的なアコーディオンとは違うそうですね??どのようなものなのでしょうか??

「旧ユーゴスラヴィアから1991年に独立したスロヴェニア共和国は四国ほどの国土に200万人強の人々が住む美しい国です。そして、その人々の暮らしにアコーディオンは深く根付いています。ホームパーティーでもアコーディオンを囲んで歌ったり、少なくともアコーディオン音楽を流しているはずです。一般的に目にすることが多いのはドイツ語でシュタイリッシュハーモニカとしてご存知の方も多いディアトニック式の楽器「フライトナルツァ(Frajtonarca)」です。押しと引きで異なる音が出るタイプのこの楽器は手軽な物として広く愛好者がいて、身近な楽器だけに小さな頃から習いに行く人もたくさんいます。次いでピアノ式が盛んで、ボタン式のクロマチックは殆ど目にしません。好まれる音色はよく通るMMMのミュゼットチューニングで、ある程度トレモロが掛けてあることが多いです。合唱や管楽器とのアンサンブルにも用いられるたり、野外での演奏も多いため音が通る仕様が好まれます。そして民俗的な音の好みとしてキラキラした高音とビリビリ来る低音が強調されて中音域は薄くなっていますが、これは歌を想定してその音域が抜けるように自然と空いてしまうのかもしれないと最近では思っています。実際コンサートに行っても楽器だけの演奏の割合は低くて歌入りを4曲演ったら1曲インスト…という配分の印象です。日本でアコーディオンを弾く場合、弾き歌いが「当たり前」というほどではないことを思うと、つくづく文化の違いとして面白いポイントだなと思います。2019年暮れに「日本スロヴェニアアコーディオン友好協会」というのを立ち上げて、毎月ワークショップをするつもりだったんですが、新型感染症のため活動を見合わせています。再開できるようになったら、たくさんの人にレパートリーを共有してスロヴェニアの音楽に親しんで欲しいと思っています。」

☆☆安西さんがスロヴェニアやシュタイリッシュハーモニカについて詳しく記したものはこちら

https://note.com/anzeanzaihajime/m/m948ac50a985a

 

 

--最後、蛇腹楽器には興味があるけどこれから聴いてみよう、または弾いてみたいかも、と思っている人にメッセージをお願いします。

 

「ここで特集を重ねて紹介されているように、アコーディオンとひと口に言っても、目的に応じて色々なバリエーションが何十種類もあります。そして世界中の様々な音楽シーンで異なった役割を果たしています。本当にそれはそれは広い世界が広がっています。なので、ふと耳にしたものが「アコーディオン」という一種類の楽器だという先入観を捨てて「この音良いな、どんな楽器を使ってるんだろう?」と楽器から始まって、場合によっては国や歴史などにも興味を持って調べてみると、さらに一歩踏み込んで見えて来るものがあると思います。そうして文化を理解して鑑賞すると、きっと貴方の人生がより豊かになると思います。アコーディオンが世界中で愛されているのをぜひ聴くことから体感してみてください。

そして、楽器を始めてみたいという方には「楽器を手に入れて、始めてみましょう」とアドバイスをいたします。私の顔を見る度に「アコーディオン良いですね。始めたいんですよ」とずーっと言い続けて十数年経ってしまった人が何人かいます。それぞれの事情はあるかも知れませんが、その方は一生弾く事はないのではないかと思います。始めることができた貴方には、お金で買うことができない祝福があると思います。始めるために何年も悩むのは非常に勿体ないと後で気付くほどつまらない事はありません。合わなかったら止めれば良いのです。踏み出さなければ永遠に弾く日は来ないはず。楽器店へ行く、体験レッスンを受ける、演奏している人に話を聞く…何でも良いからアクションを起こす事が必要です。この記事を読んでくれた貴方と、いつかアコーディオン仲間になれる日を楽しみに心待ちにしています。」

――ありがとうございました!

 

今回の他の撮影写真やオフショット等はSNSにたくさんアップされますのでチェックしてみてくださいね!

撮影:一色 卓丸 / ヘアメイク:鎌田 真理子  /  Direction:蛇腹党

撮影協力:Bellows Works Tokyo , ロケ地:カールモール新宿 【KARL MOHL(カールモール)】

安西はぢめプロフィール

日本では数少ないボタンアコーディオン奏者。得意はパリ下町のダンス音楽「ミュゼット 」やシャンソン。そしてオーストリアやスロヴェニアの明るいアルペン音楽。その他にもロシア民謡、タンゴ、懐メロ・童謡・唱歌などのレパートリーも幅広い。主にホテルやレストラン、各種イベント、ブライダル、大手テーマパークに足かけ13年に亘りレギュラー出演するなど多方面で活動。最初に師事した金子万久氏の没後、Danielle Pauly女史のレッスンを受講しにパリへ通ったり、スロヴェニアや南ドイツ、オーストリアにも出掛け現地ミュージシャンたちと交流したそのフィーリングと幅広いレパートリーは各方面から「ヨーロッパの風を感じる」と太鼓判を押されている。2019年6月にはスロヴェニアのアコーディオンメーカー主催のPokal Rutarというフェスティバルにアジア人として初参加し喝采を浴びた。以来、非公式【自発的スロヴェニア親善大使】として美しい国スロヴェニアの魅力を伝える活動もしている。
※個人レッスンあり
安西はぢめさんのYoutubeはこちら!