Interview vol.14 生水敬一朗[バンドネオン]Keiichiro Shozu[Bandoneon]

お待たせしました蛇腹ニストインタビュー第14回
バンドネオニストの生水敬一朗さんです!

―まずはありきたりな質問ではありますが、バンドネオンの最初の出会い、始めるきっかけって何だったのでしょうか?

A.1999年の「ラビリンス」というピアソラ作品のみを音楽として用いたTVドラマがきっかけでした。同時に小松亮太さんの演奏にも深く感銘を受け、その年の内にコンサートに伺い、弟子入りを志願。その後、2000年から約2年間師事させて頂きました。

-バンドネオンの魅力ってどんなところだと思いますか?
また、苦労する部分はどんなところでしょうか?

A.よく言われる“哀愁を帯びた深い音色”というところもあると思いますが、クラシック奏者である私にとっての一つ目の魅力はオルガンのような“重厚な響きの和音”です。二つ目はルネサンスやバロック期までの音楽における代表的な形式であるフーガやカノンなど、つまり(旋律と伴奏といった構成ではなく)複数の旋律のみで構成される音楽(多声音楽)に十分対応でき、素晴らしい演奏効果をもたらすことです。一方でジョン・ケージの作品なども私は演奏しておりますが、無調音楽などにおいてもとても可能性を感じています。
苦労する部分は…「全てです!」といいたいところですが、一つ挙げるとすれば、ベルトによって指や手の動きがある程度制限されるところでしょうか。いつも「もっと自由になりたい!」と感じています 苦笑

-独自の練習方法、おすすめの練習方法はありますか?

A.独自ではありませんが、基礎練習はとても大事だと思っており、毎日音階・分散和音の練習をいくつかの調で行っています。ただ、毎日同じ練習をするということは“慣れ”によって考えずとも身体の感覚だけでできてしまう、ということが往々にしてあります(“考えない練習”になってしまう)。そこで、私は同じ基礎練習でも毎日違うリズムで練習してみたり、必ず何か一工夫したりして練習するようにしています。

-バンドネオンをこれから始める方にメッセージを下さい。

A.バンドネオンはとても“面白い”楽器です。ボタン、つまり音配置を覚えるという楽器習得の入口に少し時間を要するかもしれませんが、22年間余り弾いている私でもたまに忘れます(笑)。だからこそ“面白い”のです。日々新たな発見があり、奏者自身も気づいていない新たな可能性が秘められた楽器だと思います。また、楽器入手に困難を伴いますが、入手希望の方はどなたかバンドネオン奏者の方や修理工の方など、バンドネオン(の状態や流通)が分かる方にご相談されることをお勧めいたします。

ありがとうございます!では次に音楽性についてお聞きします。

―生水さんは、クラシックを多く弾かれるように思いますが、そのスタイルになったのには理由はありますか?

A.やはり師であるアレハンドロ・バルレッタ氏の影響です。二十歳の時、彼の演奏をレコード音源で聴き衝撃を受けました。そして驚きと共にバロック音楽とバンドネオンの相性の良さに気づき、その道にどっぷりはまって色んな楽譜を探して弾いていました。特にバッハ、ヘンデルとフレスコバルディでしたね。また、携帯用オルガンとして発明された楽器といわれるだけあって、特にオルガン作品(やチェンバロ作品)との相性が素晴らしいなと思います。また、バロック期の鍵盤作品の音域がバンドネオンの音域(約5オクターブ)とかなりマッチします。

 

―表現においてバンドネオンは難しい楽器だと思いますか?

A.うーん、難しいです。バンドネオンは色んな役割を担うことができる楽器です。ご存じのように“蛇腹の引きを多く用いて”アンサンブルの中でメロディを奏でたり、和音を奏でたり(Aとします)できる他にも、“蛇腹の押引を駆使した”完全独奏、そして同様な形での伴奏など(Bとします)です。別の言い方をするならばフルートやヴァイオリンのように歌う旋律楽器としての演奏(A)もできるし、ピアノやギターのように独奏・伴奏楽器としての演奏(B)も十分可能だということです。そのように多岐に渡る役割を持つ楽器なので、表現となるとかなりの腕が必要ですね・・・。私は(B)の専門家ではありますが、まだまだ修行中です。

―最近一番最近新しく出したアルバムについて、エピソードなど教えてください。

A.最新アルバムは「碧空に雲を引く」というタイトルで、私が主宰するトリオTres Patatasでのアルバムです。私自身初となる、クラシック音楽ではないアルバムでして、クラシック音楽の作曲家であるサティのジュ・トゥ・ヴが1曲目に収録されていますが、バンドネオンの演奏スタイルとしては完全に(A)です。また、ピアソラのオブリビオンを後述の木田さんの編曲でサクソフォンとのデュオで収録しましたがアルバム中、唯一(B)のスタイルと言えます。

さて、このTres Patatas(トレス・パタータス)は石川県民によるトリオで、私が2011年に関東から地元石川県に戻り、翌年に結成したトリオです。トリオ名の意味は“3つのじゃがいも”です。結成当時、某ファミレスでフライドポテトを食べながら打ち合わせというシーンが多く、この名称になりました(笑)。またPatatasにはaが3つあり、メンバーがみなA型であるという意味も隠されています。

昨年結成10周年を迎えたのを機に、アルバムを作りました。Tres Patatasはサクソフォンに妻でもある中田真砂美、ピアノに北林多香子。二人とも石川県を代表する演奏家・指導者です。このトリオで演奏活動を展開していく中で、十数年来の演奏仲間であり敬愛するベーシスト兼作編曲家の木田浩卓氏に作品委嘱を始めました。昨年段階でその作品が溜まってきたのでそろそろ録ろうか!みたいな(笑)。アルバム制作にあたって彼に追加で作編曲を依頼し、オリジナリティ溢れるアルバムになりました!また、彼はJacrotangsというバンドでバンドネオンの北村さんとも一緒に演奏されていますが、我々Tres Patatasにとっても欠かせない第四のメンバーであり、彼がいてこそのアルバムとなりました!まぁただ、クラシック畑である私の門外漢演奏(A)ですので、お聞き苦しい点はご容赦ください・・・苦笑。

購入ページはこちらBellows shake concert (bsc.official.ec)

―生水さんの情報をもっと知りたい!という方はどのようにすれば良いでしょうか?

一昨年くらいからYouTubeチャンネルをリニューアルし、ライブ動画とは別に、とにかくソロにこだわってクラシックのシリーズもの作品をアップしております(最近はサボり気味ですが)。バッハの「インベンションとシンフォニア」や「平均律クラヴィーア曲集第1巻」などの他にも師バルレッタの「小さなバンドネオン弾き」などなど。そのほかにも個人的な音楽のルーツであるTVゲームのファイナルファンタジーシリーズ、特にメイン作曲家・植松伸夫氏の作品を動画投稿しておりますので是非ご覧ください。拙HPにはカテゴリー別にアップしておりますので探しやすいかと思います。

 

―これからの野望や展望やご予定などございましたら教えてください。

A.やりたいことはたくさんあるのですが、なかなか・・・。Patatasツアーしたいなぁとか、北村聡さんとまたデュオ公演したいなぁとか、バルレッタ先生のコンチェルトしたいなぁとか、吹奏楽とバンドネオンで公演したいなぁとか、野望と願望は数知れず・・・。

ただ、あと数年以内に十数年ぶりとなる新しいソロアルバムを作りたいなぁと考えています。もちろんBスタイル、私の真骨頂を出せるようなアルバム、をです。また構想が固まり次第お伝えいたします!

 

―ありがとうございました!

A.ありがとうございました。

撮影:北原千恵美 /Direction:蛇腹党

撮影協力:Bellows Works Tokyo ,

 

・経歴(略歴)

石川県加賀市出身。埼玉大学教育学部音楽専修を作曲専攻にて卒業。バンドネオンを小松亮太氏に師事したのち、アルゼンチンにて故アレハンドロ・バルレッタ(1925-2008)、ウルグアイにて故レネ・マリーノ・リベーロ(1935-2010)の各氏に師事。作曲を鈴木静哉氏、バロック音楽理論及び奏法を岡田龍之介氏に師事。

これまでにソロCD「バロック&バルレッタ」(2009)、加藤惠理(Vn)とのデュオCD「コントラプント」(2015)、北村聡(Bn)とのバンドネオンデュオCD「展覧会の絵」(2017)をディスククラシカジャパンよりリリース。2018年、加養浩幸指揮・土気シビックウインドオーケストラと山下康介、松浦伸吾各氏の委嘱作品を録音した「ブリュッセル・レクイエム」がリリースされた。2021年には自身のユニットTres Patatasの1stCD「碧空に雲を引く」をリリース。

ソロ演奏を中心にクラシック音楽におけるバンドネオンの可能性を追究し、演奏活動を展開している。

 

・ホームページ

生水敬一朗HP

Youtubeチャンネル

Twitter

 

・レッスンの有無

オンラインレッスン、対面レッスン(主に北陸地方のみ)

レッスンの説明はこちら

 

・ライブや音源のお知らせなど

関東での演奏は

*Tres Patatas play with the guests
8月25日(木) 開演午後7時半
雑司が谷 エル・チョクロ
ライブチャージ 4,000円24席限定
【出演】
バンドネオン 生水敬一朗
サクソフォン 中田真砂美
ピアノ 北林多香子
ゲスト
コントラバス&作編曲 木田浩卓
ギター 伊藤智也
*「モンスターハンターオーケストラコンサート~狩猟音楽祭2022~」
8月27日(土) 開演午後5時
東京国際フォーラムホールA

石川県他での演奏予定はこちら

・CD情報

*「碧空に雲を引く」(2021)

Tres Patatas:中田真砂美(Sax)、北林多香子(Pf)、生水敬一朗(Bn)

*「ブリュッセル・レクイエム」(2018)※2曲のみ参加

土気シビックウインドオーケストラ(指揮・加養浩幸)&生水敬一朗(Bn)

*「展覧会の絵」(2017)

北村聡(Bn)&生水敬一朗(Bn)

*「コントラプント ~バンドネオンの二つの可能性~」(2015)

加藤惠理(Vn)&生水敬一朗(Bn)

*「バロック&バルレッタ ~アレハンドロ・バルレッタに捧ぐ~」(2009)

生水敬一朗(Bn)