第肆話:バンドネオンではない何かに就いて

第肆話:バンドネオンではない何かに就いて

こんちは、外道バンドネオン奏者 兼 伝道師のマルヤマです。

今回は怖い話です。1つ紹介するたびにローソクを消して行きたいところですが、火災報知機が反応してしまうのでやめましょう。

今更ですが、バンドネオンはよ~く考えてみたら全くなっちゃいねえ駄目でしょうがねえ欠陥の多い楽器です。

バンドネオンを始めても

・鍵盤じゃなくてボタン
・演奏中の手元が見えない
・蛇腹の操作が厄介
・値段が高い

これらのような理由で、

「バンドネオンが嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
やってられるか!バンドネオンをやめてやる。絶対燃やす!直ちに燃やして山奥に投棄してやるう!」

と思った時期があるという方が多数いるという話を聞いたことがあるという噂を耳にしたような筆者の思い込みがあるような気がしましたが全く気のせいでした。

その一方で、

「オメェは全くバンドネオンの魅力をわかっちゃいねえ!
駄目なところがかえって良いんだ!さあ、今日も修行すっぞ!」

というバンドネオン原理主義のバンドネオン野郎が世の中に男女問わず一定数居るのは間違いないわけです。

一方で「バンドネオンに近いけどそうでないもの」を好んで演奏する方も居りますし、過去にそのようなものが存在したという事実があるのは愉快で興味深いですが、不明で奇怪な点も多いです。

それは一体何なのか !?
今回はそういう形容しがたいあやふやなものについて明らかにしたいと思います。

 

 

Piano Bandoneon (ピアノバンドネオン)

 

操作性   ☆
携帯性   ☆☆☆
インパクト ☆☆☆☆
価格    データ不明
(最大☆5、バンドネオンを全て☆3として比較)

「なんでバンドネオンは鍵盤じゃねえんだ、ふざけるなよ! 俺は…..俺はなあ、今までピアノを一生懸命練習してきたんだぞ!」とご立腹の方におすすめなのが、
この Piano Bandoneon (ピアノバンドネオン) です。

Piano Bandonion (=Bandoneon) Alfred Arnold社製 1932年頃
高さ:28 cm、重量 5,88 kg
左側 44ボタン(音域:C-a1)、右側 44ボタン(音域:g-e3)

携帯性はバンドネオンと同等ですが、ピアノ鍵盤配列にもかかわらず親指を演奏に使うことができないのが最大の欠…..特徴です。もちろん Uni-Sonic です。

バンドネオンの良いところとピアノの良いところを合わせて台無しにしたスパルタな楽器といえます。筆者はこの楽器に漢気(おとこぎ)を感じました。

当然ながら、これは廃れますわな。
ただし、このようなチャレンジ精神はいつの時代も重要です。

絶滅種のため、中古での流通はございません。マニアが流出させた場合は博物館が買うことでしょう。

前回紹介した新作バンドネオンの業者に製作依頼すれば嫌がられること間違いなし!
バンドネオンが好きだけど鍵盤楽器でないと我慢ならんという方は
「幾らでも出すから作ってくれい!」と熱く交渉してください。

真の勇者にのみ Piano Bandoneonの使用が許されるのです。
そして是非極めて頂きたいです。(筆者、責任ゼロ運動実施中)

 

 

German Concertina (ジャーマンコンサーティーナ)

 

操作性   ☆☆
携帯性   ☆☆☆☆
インパクト ☆☆☆
価格    ☆

そもそもバンドネオンは German Concertina という楽器から派生したものです。

German Concertina (ジャーマンコンサーティーナ、 独:Konzertina )は、
Carl Friedrich Uhlig 氏(1789-1874年、ザクセン州 Chemnitz市出身)が1834年に開発した Bi-Sonic(押し引き異音) の楽器です。

バンドネオンを語る上でこの German Concertinaは無視できません。
元々、ドイツで単に「アコーディオン」「ハーモニカ」と呼ばれていたのはこの楽器です。

最初期の German Concertina
左側 5ボタン、右側 5ボタン、この時点では押し引き同音で 20音

なんと、これこそがバンドネオンの始まりなのです。
ボタンが四角い形状でイかすぜ、ナウいぜ、サイバーだぜ!なかなか衝撃的です!

この 20音のプロトタイプからスタートして 40音、54音を経て、1840年までに56音へと音域が拡張されて行きます。
が、Uhlig は結局 60音、64音、76音でコンサーティーナを製作販売するようになりました。

Uhlig は1854年に専門家による会議で議長を務め、Chemnitzer の基本仕様を取り決めます。ここからの構成は1900年までほとんど変わらなかったようです。

後に、100音、102音、104音に至る大きな楽器 Chemnitzer Concertina(ケムニッツァ・コンサーティーナ)になります。
Einheits Bandoneonと同じく、Chemnitzer Concertinaには 同時発音するリードがダブル(2枚)、トリプル(3枚)、クアッド(4枚)のものが存在します。

一方、German Concertina奏者 Carl Friedrich Zimmermann 氏は、自分仕様の楽器を作るためコンサーティーナ製作に没頭。
Chemnitzer Concertina をベースにボタンのレイアウトを見直しました。

Uhlig 氏からリードボードの提供を受け、最初は屋根裏部屋で製作をしていたようですが、1847年に最初の工房を Carlsfeldに立ち上げ生産販売を開始し、1850年には Carlsfeld Concertina(カールスフェルト・コンサーティーナ)として楽器の博覧会に出展します。
この時点で、Chemnitzer と Carlsfelder で仕様が分かれます。

後に、Zimmermannは1864年にアメリカの Philadelphiaに移住します。

ドイツの鉱山で働いていたポーランド人とチェコ人がいつしか Chemnitzer Concertinaに精通するようになり、楽器をそれぞれ母国に持ち帰り、それがきっかけでさらにポーランド人、チェコ人、ドイツ人の移民が楽器をアメリカに持ち込むようになり、アメリカ内で German Concertina 熱が高まります。
その後、American Concertina という仕様も出てくるようですがここでは説明を省きます。

Zimmermann がドイツを離れる際、彼の弟子で工場長でもある Ernst Louis Arnold (1828 – 1910年)が1864年に事業をそのまま引き継ぎ、拡大に成功しました。

これがELA社です!

また、Uhlig の娘はErnst Louis Arnold と結婚しました。二人の間に生まれた息子が Alfred Arnold 氏です。サラブレッドのようですね!

1910年にErnst Louis Arnoldが亡くなり、Alfred Arnold が 1911年にELA社を買収し事業を引き継ぎ Alfred Arnold社 (Alfred Arnold Bandonion- und Konzertina-Fabrik Carlsfeld)となり、南米向けのバンドネオンの製作販売を行うのです。

このAlfred Arnold の工場は1948年まで Carlsfeldで操業されます。

ちょうど良いので、ここでバンドネオンの話に戻ります。

バンドネオンは Heinrich Band 氏(1821-1860年、Krefeld出身) が Uhligによる 56音のGerman Concertinaを元に改良を加えて設計、1847年に特許を取得したものです。

最初期のバンドネオン (Bandonion) 1850年頃
左側 14ボタン、右側 26ボタン、押し引き異音の60音
高さ:15.5cm、幅:17.5cm、重量 1.5 kg

この時点で Rheinische lage(ライニッシュ式配列)の基幹が出来ております。
リードプレートは鉛、左手側は German Concertinaのままです。

実は「バンドネオン」という名称はかなり後からつけられたもので、
少なくとも1855年までは「(当時としては新型の)アコーディオン」と呼ばれていたようです。
これは従来の German Concertinaと区別するためです。

バンドネオンの発明者は Heinrich Band ではありますが、あくまでも基本原理を開発した Uhlig 氏こそが始祖です。

“e”の付いた “Bandoneon”のスペルは、スペイン語とフランス語に由来します。
元は ‘’Bandonion’’ のスペルです。

話を German Concertinaに戻します。

German Concertina Georg Bässler製 1900年頃
左側 22ボタン、右側 27ボタン、96音 Carlsfelder System

この個体はレジスター機能付きで高級機です。

German Concertina の中古品はバンドネオンより比較的安価(状態が良くても10万円以下)で入手が可能です。バンドネオンとは音色が全く異なります。ボタンの並びが独特なので判別は容易です。興味がある方は買ってみてください。

German Concertina はバンドネオンと似た外観で Bi-Sonicではありますが、 基本的に 1オクターブ 12音階を蛇腹の押し縮めの切り替え無しで演奏ができません。

これをバンドネオンと称して高値で売りつける悪の商人も居りますので騙されないようご注意ください。

German Concertinaは「Pomerana」という中欧のポメラニア地方(ドイツ・ポーランドにまたがる地域)由来の踊りの伴奏に使用されております。ようするに Polka (ポルカ)です。

バンドネオンではなくあえて German Concertina (Chemnitzer Concertina, Carlsfelder Concertina)を好んで愛用している奏者の存在も確認しております。

いくつか動画リンクを貼っておきます。

Pisando Firme (Teodoro Barth) – por Teodoro Barth na Concertina https://www.youtube.com/watch?v=xmQ53Ay6H8g

Carlos e Elmário Seidler https://www.youtube.com/watch?v=RnI65T5K5Js

“The Four Jacks March” played by Maureen Dwyer on Chemnitz concertina https://www.youtube.com/watch?v=TR3JXEU03Gw

Karousel Waltz – Chemnitzer Concertina https://www.youtube.com/watch?v=U2k18-FjtmI

押し引きが同等に行われており、インテンポの気持ちの良い演奏です。
筆者はこのような演奏が非常に好きです。

バンドネオンと比べると音色はチープで素朴かもしれませんが、独特の魅力があります。

イングリッシュ・コンサーティーナ、アングロ・コンサーティーナ等
他の種類のコンサーティーナも存在しますがこのコラムでは触れません。

筆者はバンドネオン周りにしか興味がありませんし、別の方がコラムを書いてくださることを期待しましょう。

 

 

Symphonetta (シンフォネッタ)

操作性   ☆☆
携帯性   ☆
インパクト ☆☆☆☆☆
価格    ☆☆☆

「バンドネオンは好きなんだけど、演奏中の手元が見えないのはかなり不満だ。」と
そんなあなたにオススメなのがこの Symphonetta (シンフォネッタ)です。

Symphonetta Ernst Louis Arnold製 1930年頃
範囲:Bb” – f#” (5+1/2オクターブ)
発音はダブルリード

この楽器は 1890年頃にRichard Scheller 氏によって開発されました。
実際の製造販売は ELA社(Ernst Louis Arnold)のみが行っていたようです。

「卓上型のUni-Sonic バンドネオン」と言えばわかりやすいのではないでしょうか。
この楽器は ‘’Konzertinetta’’と呼ばれていた時期もあるようです。

ボタンは Bシステムのクロマチックキーボードで、一番左上の基本パターン列の黄色いボタンは1 / Cと記載がされていることがわかります。

5列のボタンのうち、真ん中の3列は基本パターンで、外側の上と下の列は運指を補助するためのボタンがリンクされております。

ボタンの位置と数は左右とも同じで、右側と左側の間には、1オクターブ超のギャップがあります。

テーブル部分に綺麗に収まる折りたたみ式の足が付属していますが、折りたたんでしまえば座奏も可能です。

バンドネオンとの大きな違いは、2本の蛇腹が楽器の底で接続されており、直立するように生えている点です。

「右手を押すと同時に左手は引く ⇔ 左手を押すと同時に右手は引く」を反復しながらボタンを操作してプッシュプルで演奏をするようになっております。

楽器内部を気流が往復するため途切れることなく演奏が可能です。
ヘッドを縦に持ち上げる必要があるため、バンドネオンよりとっつきやすいかは不明です。

演奏動画を貼っておきます。

Symphonetta R . Scheller /E. L. Arnold https://www.youtube.com/watch?v=Ugp6GA3FfoQ

“la marine” au Symphonetta https://www.youtube.com/watch?v=zJZuFlaHP4g

筆者はebayでこの Symphonettaが 約 400,000円で出品されているのを見たことがありますが、見事に買い逃しました。やらかしました!
今考えてみたら置き場所が無いのでうっかり買わなくて良かったと思っております。

この Symphonettaではボタンの視認性が確保されておりますが、
バンドネオンの場合、ボタンに色や記号、目印をつけても演奏の時にはほぼ役に立ちません。

一部のボタンの表面に点字のような突起を付けるのは有効かもしれませんが、複数のボタンにそれが付いていたら、指への刺激で気が散りそうで怖いですね。

手元を見ながら練習を続けていると腰を痛めて再起不能になる可能性があります。
仮に手元を見るにしても、両手を同時に見ることは不可能です。

指先でボタンの気配を感じられるまで感覚を鍛えるしかありません。

 

 

Hybrid Bandoneon (ハイブリッドバンドネオン)

操作性   不明
携帯性   ☆☆☆
インパクト ☆☆☆
価格    ☆☆

前回紹介致しました Harry Geunsという業者には「Hybrid Bandoneon」という選択肢がございます。
何がハイブリッドなのか言いますと、ボタンアコーディオンとバンドネオンのハイブリッドになります。

これは、BシステムまたはCシステムボタンアコーディオンを演奏するアコーディオン奏者向けに作られているものです。

Professional model C- , B- and Russian B-system bandonion


Professional model 基本価格は 4950 €

Medium model C- B- system hybrid bandonion


Medium model は 2,600 €

デモ演奏 https://www.youtube.com/watch?v=jUIrfcDmIXg

こちらは別の業者 Atzarin のHybrid Bandoneon、
「Atzarin Bandonion」です。

http://atzarin.com/
所在地:バスク自治州
動画チャンネル https://www.youtube.com/channel/UCbeEmJNTR45DXESw5dT-sPQ
デモ演奏 https://www.youtube.com/watch?v=qVSM7MwyBn4

バンドネオンの音色のエミュレートがやや不十分な気がしますが、現在も開発続行中とのことです。価格は不明。

 

 

Harmonium (ハーモニウム)

操作性   ☆☆☆☆☆
携帯性   ☆☆
インパクト ☆☆☆☆
価格    ☆

Harmonium (ハーモニウム)は主にインド、パキスタンで活躍している楽器です。
携帯型のリードオルガンですがこれは良いです。筆者は1台欲しいです。

Harmonium PALOMA社製
高さ 30 cm、長さ 61 cm、幅 29 cm、重量 12 kg
39 buttons、発音はダブルリード

この個体は価格 10万円程度です

鍵盤の下についているノブは空気の調節弁で、これを引くと音が変化したり、常時特定の音が出るドローン機能が使用可能となります。

鍵盤数が多いものや、同時発音がトリプルリードの高級機種も存在します。旅行用のミニ Harmoniumもあるようです。

販売サイト
https://www.musiciansmallusa.com/paloma/
https://www.indische-instrumente.de/harmonium/harmonium_uebersicht.htm

演奏動画、紹介動画のリンクを少し貼っておきます。

Harmonium https://www.youtube.com/watch?v=TTbvqdHo_cE

जिंदा रहने के लिऐ तेरी कसम इक मुलाक़ात ज़रूरी है सनम क़व्वाली हारमोनियम धुन https://www.youtube.com/watch?v=IzogxuuJcBY

ハルモニウム【PALOMA社製】(小型&品質良) https://www.youtube.com/watch?v=_eydyvBpa8A

蛇腹を常にパカパカ操作し続けなければならないため、片手をとられます。

オルガンのように複雑な演奏は厳しいですが、気軽に始められるようなので選択肢としては有ではないでしょうか。

鍵盤好きなら無理にバンドネオンせずにこういう楽器をするのも楽しいと思います。
これを持ってバンドに参加したら目立つこと間違いなし!
電源が必要ないのも良いです。

以上となります、いかがでしたか?

いや~怖かったですね。バンドネオンの周辺には他にも恐ろしい楽器が多数存在します。
今回はこの辺で失礼します。

それではまた!

外道バンドネオン奏者 マルヤマ

[経歴]
1982年静岡県生まれ。東海大学電子情報学部電気電子工学科卒業。電子音楽の研究、電子楽器の衝動買いなどをするうちに何故かバンドネオンの魅力にはまり、2012年より小川紀美代 氏にバンドネオンを師事。2018年9月より蛇腹党に入党し、外道バンドネオン伝道師として自身の独断と偏見に基づいた記事を執筆している。