interview vol.8 藤野 由佳[鍵盤アコーディオン]Yuka Fujino[Piano Accordion]

蛇腹党インタビューVol.8、国内最大個性派アコーディオニスト!藤野由佳さんです!民族音楽をとことん追求し、自らのモノにする。その魅力をお届けします。

 

Q:ちょっとそのまえに!藤野さんは「国内最大火力女子」との異名をお持ちですね!この意味は?
A:この呼び名は、アコーディオニストの都丸智栄さんと共演した時に、都丸さんが宣伝文句に考えてくださったものなのですが、その後色々な方からそう呼ばれるようになりまして…(笑)。そもそもは女性の中では音が大きい、というところと、演奏で熱量が上がってくるとヘドバンしたり、荒々しいプレイになったり暴れ出すからでしょうね…有り難いような不名誉なような…(笑)。音量に関しては、テーマパークなど屋外の仕事が多く、叩き上げた結果そうなったというところもあります。自分のプレイスタイルとしても、力まずにしっかりした音量の音を出せることは大切だと思っています。勿論、繊細にも弾けるんですよ!(笑)
Q:そもそも、藤野さんのルーツ音楽といえば?またそれらは藤野さんにどのような影響を与えているのでしょうか
アイルランド、スコットランド、そして最近では特にフィンランドの音楽でしょうか。アイルランドは大学時代、母と訪れ、好きになったのをきっかけに、音楽を聴いたり弾いたりするようになりました。
様々な国のダンス音楽や伝承歌…音から感じられる空気や風土、リズムは、節回しは、タッチは…と、どんどん追求したくなります。弾くからにはただフレーズをトレースするだけではなく、その国それぞれの特徴をしっかり把握して弾きたいと思っています。可能な限り現地に赴き、敬愛するミュージシャンに会い、レッスンを受けたりします。
また、これらの国での伝統音楽は(どこでもそういう面はあるとは思いますが)、人や土地と深く結びついています。誰から教わったとか、何があったからできた、とか、曲にまつわるエピソードがあったり。私の好きなアコーディオン奏者たち、例えばイングランドのKaren Tweedや、フィンランドのMaria Kalaniemiのアルバムには、そうした過去の記憶や大切な思い出に基づいて作られたり、風景をそのまま音に写すような試みも見られたりします。まさに今私がやっていることは、こうした音楽体験に基づいています。私が作曲をする時、作るフレーズや、構成や曲調や、様々な部分に、私の体の中を通ってきた民族音楽が影響しているとも思います。同時に、外国の音楽が好きと言っても、自分はまず日本人であり、その国の人にはなれません(笑)。そして日本の自然や風土も言語も大好きなので…それがミックスされて、私の音になっていればいいなと思います。

Q:藤野さんのプロフィールにある、「日々出会う、心ふるわす人やもの、記憶を音にする」とはここからきているのですね。例えば、どんな記憶が音になるのでしょうか?
A:ソロアルバムのほかに、様々なユニットで曲を書いているのですが、大体は、自分が経験した出来事や、見た風景、読んだ本からフレーズやコードが浮かんできて、曲になります。小さい頃から、いわゆる本の虫だったので、言葉一語から曲ができることもあります。といっても、何でも曲になるわけではなく、心からなかなか離れてゆかない、強烈な記憶が曲になることが多いです。
最新のソロアルバム「秋の光」のテーマは、「失ったひと、失った心」です。もう二度と会うことの無い人たち。もう戻れない過去。徐々に記憶は薄れてゆくけれど、その時その瞬間を音の中に残すことはできる。そんな思いで作った曲を中心に収録しました。例えばタイトル曲「秋の光」は、お世話になったエンジニアさんが亡くなったという知らせを受けた時に書きました。その時ちょうど深まりゆく秋の山の中にいて。夕方の光が木々に差し込み、黄金色になった瞬間があり。その時、この行き場の無い悲しみと、光の美しさを音にしたいと強く思いました。光を音にしたいなら、もっと適した楽器はあるとは思うのですが、私は、感じたこと見たこと全てを、アコーディオンで表現したいのです。
Q:藤野さんは、ゲーム音楽に関わることが多いですね。ゲーム音楽は、日本独自の文化として世界的にも重要なジャンルかと思われます。ゲーム音楽は、一般的な音楽とどこが違うのでしょうか?
A:例えばFinal Fantasyシリーズなど、作曲家が民族音楽に影響を受けて作ったゲーム音楽は大変人気があって。それらを聴いた世代が、今や民族音楽の演奏家になっていたりもします。私自身は、アイリッシュを演奏するアコーディオン弾きということで、こうしたゲーム音楽のレコーディングに呼んでいただくようになりました。今ではゲームに登場する、様々なジャンルのアコーディオンを弾いています。ゲーム音楽は、当然ながら、音楽だけで成り立つものではなく、まずゲームのキャラクターやストーリー、世界観があってのものです。音楽を聴くとシーンが浮かんでくるような…。そうしたゲーム音楽のありようは、私が曲を書く時に通じる部分もあって、とても楽しく、好きな仕事の一つです。レコーディングの時も、まずどんなシーンかをうかがって、イメージをしながら弾くようにしています。
ここ近年だと、Final FantasyⅩⅤ、モンスターハンターワールド・アイスボーン、スマホゲーム・ポケモンマスターズなどで、アコーディオンを弾いています。また作曲家光田康典さんの「Xenogears 20th Anniversary Concert」や「CHRONO CROSS 20th AnniversaryLive Tour 2019 RADICAL DREAMERS
Yasunori Mitsuda & Millennial Fair」に出演しました。
Q:藤野さんが今後やっていきたいことはどんなことでしょうか?
A:まずは、ますます民族音楽の沼にハマる…笑。他の楽器の技法を貪欲に取り入れたりもしたい。それから、様々なミュージシャンと音で会話をしながら、ライブでますます暴れる…(笑)。オリジナルに関しては、年を経て、また感じ方や感じる内容も、そして世界も変わっていくと思うので…その時その時の心を曲を通して、表現できればと思います。私は歌は歌えないけれど、音に情景や感情を込めるので…歌の無い弾き語りとも言えるかもしれません…(笑)。聴いてくださった方は、それぞれが自由に情景を思い描いて楽しんでくださったら、それが何より幸せです。
ありがとうございました!
藤野由佳(Yuka Fujino)
アコーディオン振興協議会理事長、故中嶋正作氏に師事。
アコーディオンで奏でる音楽全般をこよなく愛し、日々出会う、心ふるわす人やもの、記憶を曲にすることがライフワーク。現在、ソロ及び、オオフジツボ(with 壷井彰久vln, 太田光宏gtr)、蛇腹姉妹(with 佐々木絵実acc)ほか、様々なユニットを通して活動中。
作曲演奏を担当した、「なのはな」「秋霖」(オオフジツボ)が、ユネスコ世界遺産・岩手県平泉中尊寺公式動画CMに採用、現在配信中。
またサポートミュージシャンとして、様々なアーティストのコンサートやレコーディングに参加。変幻自在なフレーズとエモーショナルなプレイが好評を博す。2019年9月、3枚目のソロアルバム「秋の光」リリース。
個人サイト
 
レッスン
ヤマノミュージックサロン吉祥寺、有楽町、大手町
個人レッスンは応相談
3rd solo album「秋の光」

撮影:一色 卓丸 / Direction:蛇腹党

撮影協力:Bellows Works Tokyo ,丸屋九兵衛,LOVEフラワー

衣装:Andorinha, Tsubame Acryl