第玖話 ドイツ編 Klaus Gutjahr工房訪問 Part 2
押忍!マルヤマです。
野暮な前置きは抜きにして Part 2 を続行致します。
すみれ色のスープ
Klaus氏は赤い塗料の粉末をお湯に溶かした。
「まるで血の色のような赤だ!」とおどけるKlaus氏
さらに、手際よく青い粉末を混ぜていく。
実は、筆者は 2号機の外装色を Violet (青紫 = 菫(すみれ)色)にしたいという希望をあらかじめ伝えていたのであった。
完成した青紫色を確認するKlaus氏。
バンドネオンの外装は「シェラック塗装」で染色を行う。
これはインクを木目に沿って布で拭き取ることで着色させる方法だ。 決してスプレーなどを使用して塗装してはならないのだ。
青紫色に染色した箇所にニスを塗る。乾かしたらさらに塗る。途中からは研磨も併せて行う。
これを何度か繰り返すと美しい発色となるのだ!
これが出来上がった菫(すみれ)色のスープ、赤紫(Purple)ではなく青紫(Violet) であることが筆者のこだわりだ!
で、こちらが仕上がりの画像。(2019年5月 Klaus撮影)
このコラムの第漆話 前半にある通り、筆者は100% 本気(マジ) だ!
紫色は「縁起が悪い」 あるいは「神秘的」なイメージだそうですが、このようなバンドネオンが存在するのはどうですかな!?
たまにはいいんじゃないですかな?
ムダの無い切削加工
Klaus氏は年間 約 10台程のペースでバンドネオンを製作販売している。
作り置き(Stock販売)はせず、オーダーを受けた際に部品を組み上げ製作を開始する。
全ての作業はKlaus自身によって行われる。
この棚にはサウンドボードの材料群が並んでいる。
上段右にリードのチェンバー、下段にアームの軸受け及び様々な長さのアーム、さらに右側にはリードプレートが少し見える。
アームの軸受けには材料となる木材の密度が高い部位のみを使用しているとのこと。
ここでKlaus氏は「サウンドボードは全て同じクオリティーで作ることが重要だ」と語った。そのために使用しているのがこちらの機材である。
CNCルーター。左側には集塵機がスタンバイされている。
CNC(Computer Numerical Control)とは「コンピュータ数値制御」の意である。
即ち、加工品の形状、加工手順、使用工具、工具の移動量及び移動速度 等 をコンピュータを利用して数値制御し、自動的に正確な加工を行うものである。
曲線、曲面といった複雑な形状も数値で定義されている。
流れとしては、
「プログラム実行」
→ 「CAD/CAM(形状データ)呼び出しあるいは生成」
→ 「CNCマシンへ出力」
となる。
パソコンの前でプログラムについて熱弁するKlaus氏
一つの楽器に対し、24種類のCAD生成プログラムを適用しているとのこと。
・サウンドボードの各ユニット:レバーの配置 → ブリッジ(アーム) → フラップ → リードチェンバーへ続く穴
・左右のカバー:ボタンの穴、グリップを取り付ける位置、グリルの格子
・外装装飾:シルバーライン、マザーオブパール(貝殻の内側の真珠層)
これらはあらかじめ図面化されており、最適の状態のものを同じ品質で量産可能とのこと。
うーん、全く無駄が無い!Klausは完璧主義だ!
また、これらのプログラムにより各種のボタンレイアウトシステムに対応が可能、
ドイツのEinheits式、アルゼンチンのRheinische式、フランスのPeguri式もバッチリ!
さらに個別のオーダーにも対応可能!
ただし、イレギュラーなオーダーによりCADやプログラムを大幅に調整しなければならない場合は追加料金がかかります。
Gutjahr Bandoneonのコピー!?
「Scandalli (スキャンダリ)のバンドネオンはGutjahr Bandoneonの劣化コピーだ」とKlaus氏は率直に語った。
確かにフォルムは似ている。
加えて、39+37ボタン 152音、Gutjahr Bandoneonの仕様を意識したものであるといえる。
このパンフレットには記載はないが、価格の設定はやや高めの € 7999.00だ。(2019年5月現在)
第参話で触れたとおり、Scandalli Bandoneonの開発にはBeltangoを主宰するプロバンドネオン奏者 Aleksander Nikoric 氏が協力している。彼はKlausの友人である。
http://www.scandalli.com/en/#!module=newsDetail&modo=default&id=1572&page=1
彼はGutjahr Bandoneonのユーザーであるが、Scandalli Bandoneonのユーザーでもある。
さらに、従来のAlfred Arnoldのバンドネオンも所持している。
開発に協力するに至った経緯は不明だ。
これに対し、Klaus氏は寛容な姿勢だ。
「コピーされた頃には既にこちら(Klaus)側はそれより先に進んでいるだろうから問題はない。ノウハウは全て私の頭の中にあるし、誰も真似はできないさ。」と貫禄を見せたのだった。
いずれGutjahr Bandoneonのレプリカを製作する業者は現れるかもしれないが、Scandalli社は若干時代を先取りし過ぎではなかろうか。
今はGutjahr Bandoneonの劣化コピーに過ぎないかもしれないが、このような試みを決して侮ってはならない。
いずれScandalli社がGBタイプのバンドネオンの完全再現、あるいはAAタイプ、GBタイプに次ぐ第三のコンセプトを持った新たなバンドネオン開発に成功する日が来るかもしれない。
今後の動向が気になるところである。
ドイツの旅を終えて
筆者はGutjahr Bandoneonユーザーとして、そのコンセプトをおおよそ理解していたつもりでありましたが、実際にKlaus氏から各種の説明を受けたところ驚くことが多かったです。
非常に有意義な旅となりました。
今ではバンドネオンが非常にお得な買い物に思えて仕方がありません。
ただ、歴史は繰り返すことをお忘れなく。
製作者が引退するなどして買えなくなってから騒ぎ出して復刻を試みたり、ビンテージ品を探し求めたりするくらいなら今買いましょう。今ですよ今!
なお、蛇腹党一行はベルギーのHarry Geuns氏の工房も訪問いたしましたが、機密情報が多いので紹介できません。
これら機密情報に関してはいかなる尋問を受けても筆者は吐きません。
AAタイプの新しいバンドネオンが欲しい方はHarry 氏の楽器を買うと良いでしょう。
オーダーから2年待ちとのことです。
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外道バンドネオン奏者 マルヤマ